第8章 百鬼夜行の、その最中※
「…ただ、ミョウジさんが受肉体という仮定が事実の場合───蛇螺(ダラ)の遺伝子が、九相図の"母体"の遺伝子と一致することになります」
九相図の母。
身に覚えのない懐妊から始まり、狂った人間によって呪霊との子を孕まされた彼女。
それが何かの拍子でナマエの故郷に訪れていたというのか。
(…いや、違うな)
安易な結論に引っ張られそうになりながらも、思考を整理するために軽く頭を振った。
「蛇螺も元は人間で、村の呪術師だったんでしょ。
呪霊に抵抗出来なかった"九相図の母親"が、蛇螺そのもの──って線は考えにくい」
僕は背もたれに頭を預け、思考の海に深く沈む。
欠けていた最後のピース。
それは、あの惨劇の結末を迎えた彼女が産み落とされた時、隣にもうひとつの命が産まれていた可能性。
「九相図の母親と蛇螺が、一卵性双生児だった、とかかな。一卵性なら遺伝子はほぼ同じだし」
「…私と家入さんも、同じ推測です。
関連の書物では、蛇螺が発現したのも明治初期ですので」
僕の推測に、伊地知は深く頷いた。
この仮説が事実ならば、彼女らも例に漏れず、呪われた双子。
一人は加茂憲倫の玩具となり、もう一人は人知れず呪霊へと成り堕ちた。
そしてその一欠片が、巡り巡ってナマエの母を介し、あの子の中に再構成された。
「怖いくらいに繋がるね」
僕は吐き捨てるように笑った。
運命なんて綺麗な言葉で片付けるには、あまりにも残酷な連鎖だ。
「この件は引き続き内密に頼む。硝子にもそう伝えて」
「…承知しました。
蛇螺の肉体部分が上から降り次第、九相図とミョウジさん、それぞれとの鑑定も進めて参ります」
「ん、よろしく」
それだけ言って、僕は深く、長く、肺の中に澱む感情を吐き出すように溜息をつく。
しばらくの沈黙の後、
僕は重い腰を上げてソファから立ち上がり、再び目元に包帯を巻き直した。