第2章 わるいこ
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五条さんの腕に抱かれながら、目の前に広がる服をぎゅっと握りしめ、恐怖を間接的に伝えようとしてみる。
だけど五条さんはそれに気づいてないのか全然足を止めてくれなくて、私が気づいた時には「あ、いた」なんて声を出して駆け足になる。
「恵、お疲れ〜」
そして、私の背中が見えているであろう"誰か"に、声を掛けた。
「げ」
「はは、僕に会えてそんなに嬉しい?超忙しい中、来た甲斐があるなぁ」
「全く嬉しくないので帰ってください」
知らない人の、冷たい声音。
無意識に肩が揺れ、五条さんはそれに気がついたように私の頭をぽすぽすと撫でた。
「あ〜あ、ビビっちゃった。よ〜しよし、大丈夫だよ〜」
「……ソレ誰ですか?俺と歳変わんなそうなのに、恥ずかしくねぇの」
「ひっ…、」
私に投げ掛けられる言葉。
敏感な心に突き立てられた何気ない言葉が棘のように刺さり、目の縁に涙が滲む。
「ぅ、っ…ううっ、」
「あ〜あ。泣いちゃったよ」
「…は?これくらいで……」
五条さんの首に両腕を回して抱きつき、首を振って帰りたいとアピールしてみる。
だけど五条さんはぽんぽんと頭を撫でてくれるだけで、私を解放してはくれなかった。
「あ…!恵、五条さ……ってあれ?その子、泣いてる?」
凍えそうな空気の中、突如として柔らかな声音が私の耳に届く。
私は少しだけ五条さんの首に回す腕の力を緩め、ちらりと目線を後ろに向けた。
「…津美紀」
「あ、津美紀おかえり〜」
「ふふ、ただいま!五条さん!その子は……?」
「あー実はこの子、二人に紹介しようと思って連れてきたんだけど………恵が泣かせちゃったんだよね〜」
「えっ…!?め、恵!何してるの、謝りなさい!」
そこにはツンツンした黒髪の男の子と、茶色がかった長い髪の毛を後ろでひとつに結んでいる女の子。
彼女は私を見上げたまま慌てて私に駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。
「初めまして…!恵がごめんなさい。悪い子じゃないの」
「あ……ぅ、」
「ほら、。初めましては?」
「…はじめ、まし、て」
私が小さく会釈をしながらそう言うと、女の子は「わあ…!可愛い子!」と五条さんの足元でぴょんと跳ねた。