第8章 百鬼夜行の、その最中※
いつだって触れたいと思うのは私ばっかりで、恵くんは冷静な顔で私の隣に居る。
いやらしい女だと思われることは嫌で、それでもずっと並行のまま進むのも嫌で。
だから、たくさんアピールしてみたのに。
「っ……マジで、待て、」
「……、」
ついに肩を強く押し返され、濡れた音を立てて強引に唇が引き剥がされる。
結ばれていた熱が外気に触れて冷えていく感覚に、心臓がキュッと軋んだ。
理性なんて、跡形もなく忘れさせてしまいたい。
けれど、願うように吐き捨てられた恵くんの言葉を、無下にすることなんてできなくて。
「待ったら……次は、たくさんしてくれるの?」
「はあ…?」
そう問いかけてみても、返ってきたのは呆れたような声だった。
思わず頬が膨らむ。
こんなに必死に求めても、私の切実な想いが微塵も伝わっていないなんて。
「…恵くんの、ばか。意気地無し」
「別に、それでいい」
誤魔化すように、大きな掌が私の髪を優しく梳いていく。
怒りたいはずなのに、その優しい手つきに情けないほど嬉しさが込み上げてくる。
それでもここで丸め込まれてしまえば、数ヶ月前の二の舞だ。
そう思って緩む頬を抑えようとした、その時。
「俺は、間違った触れ方をしてお前を壊す方が、よっぽど嫌なんだよ」
かけられた言葉に、そっぽを向きかけた心の臍が戻る。
ちゃんと、誠実な理由がある事に驚いた。
ただ私に触れたくないのかと、そんな憶測を並べていた自分が、どれだけ恵くんのことを理解できていなかったのか。
痛いほど思い知らされてしまった。
「あ……ごめん、なさい」
「なんで謝んだよ」
そう言った恵くんは、照れ隠しのようにまた雑に私の髪を撫で回す。
少し荒っぽくて、けれどどこまでも優しい愛撫。
そのせいで、私はさっきよりもずっと深いところで、恵くんに愛されていることを悟ってしまった。