第8章 百鬼夜行の、その最中※
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今日だけでいい。
一先ず、今日はこの本音だけで止まってくれ。
その祈るような思いで吐き出した言葉は、思ったよりも深く、コイツの心に刺さったらしい。
現に今、ナマエは目を大きく見開いて、困ったように眉尻を下げている。
そんな顔をさせたかったわけではないが、言葉の意味がきちんと伝わっているようで安心した。
「……あの、恵くん」
不安げに潤んだ瞳で見つめられると、それだけで鉄壁だったはずの守りが内側から崩されていく。
喉元までせり上がった欲を無理やり飲み下し、自分に言い聞かせた。
こいつは壊れ物で、ここで情欲に流されるわけにはいかないんだと。
────それなのに。
「それは、私から触るのは……いいってこと?」
「は??」
あまりにも無防備で、あまりにも残酷な問いかけに、一瞬で思考が真っ白に焼き切れる。
「たしかに、私は恵くんに色んなところ触られたら、壊れちゃいそうなくらい気持ちよくなっちゃう、けど、」
その無垢な唇から零れ落ちた快楽を肯定する言葉に、抑えていた理性が溶けて形を無くしていく。
触れれば壊してしまう、と危惧していたはずの均衡が、他ならぬナマエの手によって崩されていく音がした。
「……私が恵くんに触るのは、いいのかなって」
不思議そうに首を傾げたナマエは、俺の肩に乗せていた手を離し、ゆっくりと下腹部の方へ滑らせていく。
そして、互いの身体が密着する場所に潜んでいた、硬く昂ったモノに───ちょん、と指先を触れさせた。
布地越しに伝わるその些細な刺激にすら、跳ねるように反応してしまった自分が酷く情けない。
「……ッ、お前、これ誰に聞いたんだよ」
問いかけてはみたが、どうせ、またあの人の入れ知恵だろう。
ナマエに余計なことを吹き込んで、俺を煽るように仕向けている。
そう思えば、この暴れ回る衝動も、どうにかギリギリのところで繋ぎ止められた。