第8章 百鬼夜行の、その最中※
白と黒の温もりに包まれたまま、しばらく動けずにいた。
背中を預けたソファの感触も、部屋に満ちる静けさも。
全部が柔らかくて、頭の奥がぼんやりと霞みはじめる
このまま目を閉じたら、きっとすぐに眠れてしまう。
そんな微睡みの中で───ふと、時間の感覚だけがすっぽり抜け落ちていることに気づいた。
「いま、何時だろ……」
呟いた声はひどく掠れていた。
そんなに長い映画を見た記憶はないのに、体はもう限界に近い。
もしかして、もう日付を跨ぐ手前だったりするのだろうか。
そう思って、ローテーブルの上に置き去りにしていたスマホへ手を伸ばした───その瞬間。
「「キュウン……」」
揃って、小さく、
まるで引き留めるみたいな声音が、左右から同時に落ちてきた。
胸の奥をきゅっと締めつけるような、寂しげな声音。
反射的に指先が止まり、空を掴んだまま、スマホには触れられなかった。
「さみしいの?」
私がそう問いかけると、白と黒の毛並みが待ってましたと言わんばかりに、すり、と私の肩に押しつけられる。
そんなことをされたら、構わないでいられるはずもなくて。
気づけば、私の両手は自然と二匹の頭へと伸びていた。
(玉犬も、甘えたなんだなぁ……)
初めて出会ってからかなり時間が経つのに、こんな一面は知らなかった。
それもそのはず。
玉犬が私の前に現れるのは、いつも任務のときだけ。
張り詰めた空気の中で鋭い目をして、恵くんの傍に控えている姿しか見ていない。
訓練の合間に、冗談半分で「玉犬に会わせて!」と頼んだこともあった。
でもそのたびに、「ペットじゃないんだ」と、少し不機嫌そうに言われて終わりだった。