第8章 百鬼夜行の、その最中※
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窓の向こうが夜の色に沈みきった頃。
恵くんに促されるままお風呂を済ませた私は、ソファに腰を下ろし、背後から吹きつけるドライヤーの温風に身を委ねていた。
その心地よさに、意識がふわりとほどけていくのが分かる。
「乾いた」
「ん……、ありがと、」
手放しかけていた私の意識を、すぐ近くから落ちてきた声が引き戻す。
危ない。
あとほんの少しで、夢の世界に引きずり込まれるところだった。
「先に寝てろ」
「……ううん。待ってる」
短いやり取りのあと、部屋に落ちる沈黙。
私は目元を擦りながらソファから立ち上がり、コードをまとめてドライヤーを片づけている恵くんの傍へと歩み寄る。
「一緒に寝たい、から」
そして自分でも驚くほど素直な言葉と一緒に、背後から腕を回す。
薄い服越しに伝わる体温に、恵くんの身体がほんの一瞬だけ強ばったのが分かった。
「……風呂、借りる」
どこか逃げるみたいに零れた声。
お腹に回していた腕の力を緩めると、恵くんはすぐに振り返り、くしゃりと私の髪を撫でた。
「玉犬」
そして頭から手が離れた、その直後。
恵くんの両手が組まれ、空気がわずかに震える。
次の瞬間、室内に二匹の犬が姿を現した。
恵くんの式神───玉犬の白と黒だ。
「ぎょくけ〜ん………もふもふ」
思わずその場にしゃがみ込み、両手で抱き寄せる。
恵くんがトイレに消えるときにも、なぜか一緒に現れたこの子たち。
会うのは一年と少しぶりで、前に見たときよりも一回り大きくなったように見えた。
「見ててくれ」
「はぁい。行ってらっしゃい」
そう返すと、便乗したみたいに玉犬たちも「ワフ!」と声を上げた。
白と黒のもふもふが左右から擦り寄ってきて、膝や腕に体重を預けてくる。
その重みと温かさに、また一段階、眠気が深くなった。
式神なのに、ちゃんと温度があって暖かい。
頭を擦りつけられるたび、恵くんに撫でられているように錯覚して、不思議な程に落ち着いた。