第8章 百鬼夜行の、その最中※
だから料理も、菓子も、こんなにも豪勢に作っていたのか。
いや、そもそも泊まりと言うが、着替えなんて持ってきてないんだから無理だろ。
頭の中で言い訳を並べ始めたところで、ナマエが何でもないように口を開いた。
「あ、お着換えとかはね、五条さんが買ってくれたよ!」
「………」
そう言ったナマエはリビングの奥へ小走りに向かい、すぐにいくつもの紙袋を抱えて戻ってくる。
それにざっと目を走らせて、頭が痛くなった。
どれも見覚えのあるブランドロゴばかり。
しかも、どれも一線級だ。
全部高いやつじゃねえか。
マジで何やってんだ、あの人。
「これね、私も一緒に選んだの。もう二日経っちゃったけど、お誕生日プレゼントにって」
「………」
「たくさん着てくれたら嬉しいなぁ」
屈託なく笑うその顔を向けられて、泊まることも、高級すぎるプレゼントも、断れるわけがなかった。
言い訳を探す思考ごと、目の前の穏やかな表情によって塞がれてしまう。
こいつに悪気がないのは分かっている。だからこそ、余計に言い訳の言葉が出てこない。
「………大切に、着る」
「ふふ、やった」
逃げ場が完全に防がれた。
ナマエの性質すらも利用して、
俺が逃げるために使う口実を予測し、予め潰されているようなこの感覚。
さっきから先回りして逃げ道を塞がれるたびに、脳裏に白髪のニヤケ面がちらついて仕方ない。
『僕はいないし帰らないから、今度はちゃ〜んと最後までヤるんだよ♡』
その揶揄い半分の軽口を思い出して、じわりと腹が立つ。
だいたい、過保護になるほど大切にしているくせに、こういうことに関してズケズケとレールを敷いてくること自体が気に入らない。
敷くなら敷くで、せめてもう少し穏便に、バレないように務めてほしい。
「あ、テレビ見るよね?つけるからちょっと待ってね」
黙り込んだままの俺をよそに、
ナマエは向かいの席に座り、何気ない動作でリモコンに手を伸ばす。
───まずい。
そう気づいた瞬間には、もう俺の手はナマエの手に重ねられていた。