第7章 愛の形
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「硝子、僕 今日帰んない方がいいかな」
校舎の高い位置に並ぶ窓のひとつ。
そこから見下ろすように、手を繋いで歩く二人の弟子を目で追いながら、僕は小さく呟いた。
そんな僕を横目で見た硝子は、案の定といった様子で面倒そうに息を吐く。
「どうせ帰れないだろ。さっき任務振られてたじゃん」
「嫌なこと思い出させんなよ」
げ、とわざとらしく舌を出して見せると、硝子は手元の資料から視線を外さないまま、淡々と続けた。
「まだあの子に言ってないの?術式の副作用と、───その発散方法」
そう言いながら、硝子は持っていた報告書をひらひらと靡かせる。
一瞬だけ覗いた紙面には見慣れたナマエの筆跡があって、思わず視線を逸らした。
「言ってないし、今後も言うつもりないよ」
軽く言ったつもりだったけど、自分の声が思ったより低く沈んでいたことに気づいて、内心で舌打ちする。
少しずつ、でも確実にナマエが自分自身を削っている現実に、平静でいられるはずがなかった。
「身体に使うのは控えるようにさせてるけど、それでも反動はゼロじゃない。
言ったら無茶する子だって、硝子も分かってんでしょ」
もし知ってしまったら。
解決策を手にしたナマエは、きっと限界まで自分を追い込む。
僕にバレないように体内の澱みを減らしてから、何食わぬ顔で会いに来る。
そんなナマエの姿を想像しただけで、胸の奥が静かに冷えていった。
「伏黒には?」
「…それは言った。めでたくお付き合いし始めたらしいからね〜〜〜」
それなのに恵ときたら。
慎重さだの順序だの、無駄に抱え込むタイプだから動きがとにかく遅い。
僕が恵なら、もう3回はヤってんのに。
「アンタなら早々に手出すと思ったんだけど」
「僕のこと何だと思ってんの?」
「御三家はだいたい倫理観皆無じゃん」
「他はともかく、僕は風評被害なんですけど」
僕の言葉を鼻で笑った硝子は、ようやく資料から目を離し、窓の外へと視線を向ける。
しかし、もうそこに二人の姿はなく、残っているのは夕闇に溶けかけた校舎の影だけだった。