第7章 愛の形
誰よりも助けてやりたいのに、今のナマエにとって唯一不動の居場所が僕であるからこそ、踏み込めない。
救いの手を伸ばせば伸ばすほど、あの子から奪ってしまうものが多すぎる気がして。結局、何もできずに恵に託すしかなかった。
「アンタに人並みの倫理観があって良かったよ。手出してたら殴ってた」
硝子の言葉は軽口の体裁を取っていたけれど、その奥には本音が混じっているのが分かる。
風評被害とは言ったものの、御三家の素行の悪さは昔からだ。
御三家だからと目を瞑られてきたことや、見逃されてきた歪みは数え切れないほどある。
女を"胎"として見ていなかったり、術式に恵まれなければ人として扱われなかったり。
ウチも含めて、そういう価値観が当たり前の家系だ。
だからこそ正論を振りかざす資格もなくて、僕は誤魔化すように肩をすくめるしかなかった。
「……憂太の家系調査の方は上手くいってる?」
重くなりすぎた空気から逃げるように話題をすり替える。
硝子もそれを察したのか、それ以上踏み込むことなく短く続けた。
「いってるんじゃない?詳しい話は、私じゃなく伊地知に聞け」
「ついでにナマエの分も頼みたいんだけど」
間を置かずにそう告げると、硝子がわずかに眉を上げて、ようやく僕の方を見る。
今さらどうして、という無言の疑問を含んだ視線から逃げるように、僕は窓の外へと目を向けた。
「上には知られたくない。お前と伊地知だけで進めてくれる?」
「手隙の合間なら、私は構わないよ。…何か思うことでもあんの?」
「あー……ウン。何となくね」
言葉を濁したまま笑ってみせると、硝子はそれ以上、追及しなかった。
「そうか。じゃ、頑張れよ」
「え」
硝子は僕の背後に目線をやってからそう告げ、ひらりと手を振って去っていく。
そして残された僕が振り返るより早く、切迫した声が飛んできた。
「五条さん、探しましたよ」
「ちょっと待って。今忙しい」
「ええ……」
そして間を置かずに掛けられたその声は、僕の任務に付き添う補助監督のものだった。