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【呪術廻戦】呪いの嫁入

第7章 愛の形


しばらく、言葉はなかった。

並んで歩く足音だけが、夕闇に沈みかけた廊下に規則正しく響いている。

その静けさが気まずいわけじゃないのに、胸の奥に溜まった感情の行き場が分からなくて、私はただ下を向いたまま歩いていた。


(次はいつ会えるかな。……また、暫く会えなくなるのかな)


そんな考えが ふと胸を掠めた、その時だった。


「…次の休み、映画でも観に行くか」
「え……」


不意に投げ落とされた言葉に、思考が一瞬、真っ白になる。

映画。
その単語を頭の中でなぞりながら、自然と懐かしい光景が浮かんだ。

つまり、家に集まって、呪力コントロールの訓練をする───きっとそういう意味なんだろう


「せっかくお休みなのに?」


やっぱり真面目だなぁ、なんて少しだけ微笑ましく思いながら隣を見上げる。

すると、深いため息と一緒に恵くんの視線がこちらに落ちてきた。


「外に、観に行くんだよ」


念を押すように紡がれた言葉に、胸の奥がきゅっと高鳴る。

期待を押し殺しきれないまま足を止めると、恵くんもそれに気づいたのか、同じように足を止めてジッと私を見下ろした。


「…お人形持って?」
「バカ。訓練なしに出掛けんだよ」
「いてっ…」


軽く弾かれた額を擦りながら、言葉を頭の中で何度も噛み砕く。

訓練なしに出掛ける。
呪術師としてじゃなく、ただの二人の男女として。

……それは、つまり。


「……デート…ってこと?」
「…まあ、そうなるか」
「!!」


胸の奥で、ぱっと何かが弾けた。

ネットで何度も読み込んだ、あの単語。
まさか自分が口にする日が来るなんて、思ってもいなかった。

恵くんは休みの日もあまり外に出ないと聞いていたから、デートなんて夢物語みたいなものだと、どこかで勝手に線を引いていたのに。


「嬉しい、すっごく、」
「…そうか」


噛み締めるように呟くと、恵くんの大きな手が、くしゃりと私の髪を撫ぜる。

その仕草があまりにも自然で、あたたかくて、自分でも分かるくらい口角が緩んだ。


「行くぞ」
「…っ、うん」


少し乱れた髪を軽く梳いてから、恵くんは私の手を取って歩き出す。

久しぶりに感じるその体温はひどく懐かしくて、安心する。

ぎゅっと握り返した指先からは、忘れかけていた熱がゆっくり胸の奥まで広がっていった。
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