第7章 愛の形
中学に上がってから、恵くんと二人きりになれない時間がこんなにも続くのは初めてだった。
訓練や任務のタイミング、休日の入れ違い。
理由はいくらでも思い浮かぶのに、それを理解したところで胸の奥が静かになるわけでもない。
お互いの好きを確かめ合うように、言葉なんていらないくらい何度も唇を重ねて、溶けてしまいそうなほど甘い時間を過ごした。
あの時間は確かに存在したはずなのに。
それを思い出すたび、胸の奥で渦巻く不安は形を変えないまま居座り続けているのを、嫌というほど実感させられる。
「ナマエ」
「……!!」
重たい息を吐き出した、その瞬間だった。
背後から落ちてきた低くて落ち着いた声音に名前を呼ばれ、肩がびくりと跳ねる。
「びっ、くりした…」
慌てて振り返ると、そこにはすでに着替えを終えた恵くんが立っていた。
「何回か声掛けただろ」
「ごめんなさい……ぼーっとしてて」
「最近それ多くないか」
言われてみれば、確かにそうだった。
自分でも気づかないうちに、思考が遠くへ引っ張られることが増えている。
────原因は分かってる。
目の前にいる大好きな人が、少しずつ、でも確実に私との距離を取ろうとしていることに、心のどこかで気づいていたからだ。
「帰ろっか。今日は伊地知さんが送ってくれるって」
「…ああ」
そんな短い会話だけを交わして、恵くんの隣を歩く。
並んで歩き出しただけなのに、胸の奥が少しだけ落ち着くのが分かる。
触れてもらえないのは寂しいのに、隣にいるという事実だけで、どうしようもない不安が薄まっていく。
それに、久しぶりにこうして並んでいるからか、それとも時間が確かに流れたからか。
見上げた横顔が前よりほんの少しだけ大人びて見えて、無意識のうちに視線を奪われていた。
「……」
「…見すぎだろ」
「えっ、あ、ごめん!」
指摘されて、はっとして顔を逸らす。
熱が集まったみたいに頬がじんわりして、気のせいだと言い聞かせながら視線を床に落とした。