第7章 愛の形
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空が橙に変わり始めた頃。
訓練が終わり、空き教室で着替えを済ませた私は、自然と恵くんのいる教室へと足を向けていた。
今日は五条さんが訓練に参加してくれたから、いつもよりずっと、内容がハードだった。
特に恵くんは、私から見ても無慈悲な難題を押し付けられたり、五条さんに文字通り叩き伏せられたり。
──大丈夫だって分かってる。
それでも、心配にならないわけがなかった。
「恵くん、一緒に帰ろ」
教室の扉を開いてそう声をかけると、
窓から差し込む赤い夕日に縁取られた恵くんが振り返り、私を射抜くように見つめた。
「着替え中」
短く落とされた言葉と一緒に視界に入ったのは、まだシャツを着ていない、恵くんの上半身だった。
朱色の夕陽に照らされた肌には、
今日ついたばかりのものと、そうでないものが混じった痣や擦り傷がいくつも残っている。
(……任務でも、怪我してるのかな)
仄暗い不安に心が支配されそうになった、その瞬間。
「ナマエ、」
ほんの少しだけ怒りを孕んだ声で名前を呼ばれ、忘れていた瞬きを繰り返す。
「あ…、ごめん……」
そして心配も、言葉も、全部飲み込んで、慌てて頭を下げた。
任務のことには口出ししない。
そうすることで恵くんの顔が曇るのを、嫌というほど見てきたから。
「あっち向いてるね!」
「いや、出てけよ」
「なんで…?見ないよ?」
「落ち着かねぇんだよ」
「………わかった」
恵くんがそう望むなら、と教室を出て、静かに扉を閉める。
「……」
廊下に追い出された私は、扉に背を預けたまま動けずにいた。
冷たい木の感触が背中に伝わり、そのままずるずると沈み込みそうになるのを必死で堪える。
視線だけを持ち上げると、廊下の窓から差し込む夕日が目に刺さった。
それが痛いほど眩しくて、思わず瞬きを繰り返した。