第7章 愛の形
久しぶりに鼻腔をくぐったナマエの匂いに、さっきまで重ねていたはずの蓋が内側から粉々に砕け散る音がした。
「……あのっ、好き!!」
「は…、」
そして追い打ちのように、なんの脈絡もなく告げられた言葉。
あまりの唐突さと、その言葉が持つ破壊力に、思考が真っ白に弾け飛ぶ。
「さっきはバカとか言ってごめんない。ほんとは、そんなこと思ってないから……」
必死に俺の胸元に顔を埋めながら紡がれる言葉に、奥歯を噛み締める。
(……そんなこと、言われなくても分かってんだよ)
そもそも原因を作ったのは俺だ。
理由も言わずに突き放して、傷つけて、戸惑わせた。
あの時 ナマエ の口から零れた言葉が本心だったとしても、俺が怒るのは筋違いだ。
───それなのに、
「許して、お願い……恵くん」
「っ…、」
縋るように見上げてくる、潤んだ瞳。
その熱っぽい視線に囚われた瞬間、喉の奥がひくりと鳴った。
ただでさえ砕け散った理性の破片が、ナマエの体温に焼かれたように溶け出していく感覚。
(………クソ、ヤベェ)
本能が警鐘を鳴らし、強引に視線を逸らす。
けれど、ナマエは拒絶を恐れるように小さく俺の服を引き、離れようとしない。
「別に、……最初から、怒ってねぇよ」
眉間に深く皺を寄せ、霧散しそうな理性を必死にかき集めながら吐き出した声は、自分でも驚くほど低く掠れていた。
怒りどころか、さっきまで邪な妄想を頭に浮かべていたんだ。
俺が今、どんなに汚い独占欲と妄想を頭に巡らせているか、コイツには想像もつかないだろう。
頼むから、今はこれ以上刺激しないでくれ。
心の内でそう懇願しても、無垢な瞳で一心に見つめてくるナマエにそれが伝わるはずもなかった。