第7章 愛の形
「リカさん…ですよね?」
「…!」
ゆっくりと顔を上げてその名を口にすると、乙骨先輩は一瞬だけ驚いたように瞬きを繰り返した。
そして穏やかで愛おしげな微笑みを浮かべ、静かに頷く。
「……うん。リカちゃんのこと、覚えててくれたんだね」
ああ、今も好きなんだ。そう確信した。
呪われ、運命を狂わされた今でも、乙骨先輩の愛は一塵も曇っていない。
その一言だけで痛いほど伝わってくる。
「乙骨先輩のことが大好きで、先輩を呪ってしまったって、」
「うん。そう言われてるし、僕もそう思ってた。……でも、最近は少し違う気がしてるんだ」
そう零しながら、先輩は窓の外から差し込む夏の日差しに目を細めた。
その瞳には、ここにはいない誰かを見つめるような、深く、底の見えない熱が宿っている気がした。
「本当は、僕がリカちゃんを呪ってしまったんじゃないかって。
……リカちゃんに消えてほしくなくて、僕が彼女を、この世界に繋ぎ止めてしまったんじゃないかって」
胸元の指輪を握りしめた先輩の拳が、微かに震える。
それは恐怖や怒りではなく、二度と触れることのできない愛する人の温もりへの、痛烈な渇望に見えた。
「生きている時に、もっとたくさん『好き』だって伝えておけばよかったって……今でも、思うよ」
そう言って、乙骨先輩は私の方を向き、祈るような、慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「……だから僕は、二人にはちゃんと幸せになってほしいんだ」
言葉にはされなかったけれど、「僕たちの分まで」と言われたような気がした。
私はまだ、目の前に伝えられる相手がいる。
その眩しすぎるほどの事実を突きつけられ、私の意固地な心は静かに、けれど素早く溶かされていった。