第7章 愛の形
グラウンドを離れ、校舎に続く重い扉を抜ける。
途端、肌をなでる冷気が火照った汗を冷やし、
その冷たさが私の心まで静めてくれるようで心地よかった。
とはいえお手洗い、と言って離れたものの、尿意なんてほんの少しもない。
「……先輩たちが来る前に戻らなきゃ」
一先ず近場のトイレに向かって力なく歩きながら、独り言を零す。
せっかく私たちのために貴重な時間を割いてくれている先輩たちの好意を、無下にするわけにはいかない。
(喧嘩なんて、……したくなかったのに)
きっと、お互いに腹の居所が悪かっただけ。
そう頭では分かっていても、鉛を飲み込んだような重苦しい気分はどうしようもなかった。
もっと私が素直に、可愛らしく甘えられていたら。そうすれば、あんな拒絶の壁を立てられることもなかったはずなのに。
(……でも、恵くんだって───)
そこまで考えて、思考を止めた。
恵くんは悪くない。
私が、ちゃんと甘えられなかっただけだ。
「……あれ?ミョウジさん…だっけ、」
後悔と自己嫌悪に苛まれて足を止めた、その時。
廊下の向こうからどこか自信なさげで柔らかな声が聞こえ、視線を上げた。
「あ…乙骨先輩、」
「合ってた……良かった。あはは、人違いだったらどうしようかと思ったよ」
乙骨先輩は、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
その佇まいは、"特級被呪者"なんて気配を微塵も感じさせないほど穏やかで、優しい。
「どうしたの?今日は真希さんたちと訓練じゃなかった?」
「そうだったんですけど、その、ちょっと……」
「…?何かあったの?」
濁した言葉の先を心配するように、無垢な瞳が真っ直ぐに私を捉える。
その目を見ていると、一人で抱え込むのがかえって不実なことのように思えてしまって、……つい、本音が口を滑った。
「………恵くんと、喧嘩しちゃって」
「え!?」
小さな声で白状すると、乙骨先輩は今日一番の驚きといった様子で声を上げた。
「ミョウジさんと伏黒くんが喧嘩?!本当に!?」
「………はい」
改めて繰り返されると取り返しのつかないことをした実感が押し寄せてきて、私の肩はさらに力なく落ちていった。