第7章 愛の形
真希さんが去って、グラウンドには私と恵くんだけが残された。
照り返す日差しの中、遠くで聞こえる蝉の声がやけに大きく感じられる。
「先輩たちが来るまで、私と組手する?」
「…いや、」
眩しい太陽に向けて、強張った身体をほぐすように腕を伸ばしながら問いかける。
けれど、恵くんは足元の砂を見つめたまま、小さく首を横に振った。
「お前とはやらねぇ」
「……なんで?真希さんとは、あんなにしてたのに」
「うるせぇ。やらねぇっつったら やらねぇんだよ」
突き放すような冷たい声。
まるで「お前じゃ相手にならない」と宣告されたようで、胸の奥がギュッと窄まる。
真希さんの実力には遠く及ばないけれど、私だって足手まといにならないよう、必死に体術を磨いてきた。
……それなのに。
「…………恵くんのバカ」
「好きに言ってろ」
視線すら合わせないまま冷たく言い放たれ、拒絶の壁を作られた気がした。
本気でバカだなんて思っていない。
…でも、日頃から溜まった鬱憤を乗せたように、口から出てしまった。
───あの日。
お互いの気持ちを擦り合わせたあの日から、恵くんは私に触れなくなった。
さっきみたいに髪を撫でる程度の接触はあるけど、それだけ。
それが寂しくて、苦しくて。
それでも、もっと甘やかしてほしい、なんて言う勇気はなくて。
お互いの任務が重なってしまい、呪力コントロールすら個人訓練に切り替わって、もう一ヶ月。
肌に残った恵くんの体温が遠のくほど、あの日の記憶は私の都合のいい妄想だったんじゃないか、という不安が影のようにまとわりつく。
「…オイ、どこ行くんだよ」
溜まっていたものが溢れ出しそうで、
黙ってその場を立ち去ろうとした私を、恵くんは声だけで呼び止める。
だけど振り返る余裕すらなくて、私は「お手洗い」とだけ言い残し、逃げるように校舎へ向かって走った。