第6章 堕神※
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テレビの明かりだけが、無機質にチカチカと視界を明滅させている。
すっかり暗くなってしまったリビングで、私は逃げ込むようにブランケットの端に顔を埋めた。
(………恵くんが、私のことを…好き)
改めて思い出すと奇跡のように思えてくる。
あんなに呆れられて、何度も助けられて、時にはひどく傷つけて。
そんな私が、彼の隣に選ばれてもいいのかな、なんて。幸せの重さに早くも贅沢な不安が胸をかすめた。
「……っ着替えなきゃ、」
ふと我に返り、床に無造作に放り投げられていた下着とショートパンツを必死に手繰り寄せる。
震える身体で身にまとい、外側だけは"いつも通り"の自分を取り繕う。
でも、布地越しに触れる肌の感覚はまだ恵くんの熱を鮮明に覚えていて、一向に引く気配を見せない。
「…………っ!?」
深く息を吐きながらソファへ腰を下ろすと、机の上で転がっていた訓練用の呪骸と視線がバチリとぶつかり、心臓が大きく跳ねた。
(……み、見られてた…?いや、でも、これは呪骸だし、)
でも、自分で動けるってことは意識があるってこと?
そう考え出した瞬間、ついさっきまでこの場所で繰り広げられていた、あまりにも扇情的な光景がフラッシュバックして顔から火が出そうになる。
「………っ、わ!?」
視線を背けるため、おそるおそる呪骸を持ち上げた瞬間──容赦のない鉄拳が頬を思いきり掠めた。
当然だ。
今の私の中に、呪力コントロールができるような冷静な意識は一ミリも残っていない。
(……今日は、もう……絶対に無理、)
床に転がった人形を見つめながら、力なくソファへ深く沈み込む。
ブランケットの隙間から深く呼吸を繰り返すが、頭の中はさっきまで目の前にいた、余裕のない恵くんの顔と掠れた声で埋め尽くされていた。
『……お前の全部、くれ』
『……好きだ』
『おかしくなれよ。……責任は取ってやる』
脳内で繰り返されるされる一つ一つの言葉が、甘い熱を持って私の脳を侵していく。
嬉しくて、幸せで、どうにかなってしまいそう。
「………っ、すき…、」
あと数秒、あのまま続けられていたら、私の意識は飛んでいたかもしれない。
でも、そんなの勿体ないと感じてしまうくらい、
初めて見る余裕のない表情も、色気を孕んだ低い声も、そのすべてが愛おしかった。