第6章 堕神※
トイレへ駆け込み、閉ざされた狭い空間で便座に腰を下ろすと同時に、両手で頭を抱え込んだ。
深く、深く呼吸を繰り返すが、目を閉じればまぶたの裏に焼き付いたナマエの蕩けた表情と、白く柔らかな肌が鮮明に蘇ってくる。
それが引き金となって、下半身の昂りは収まるどころか、一層その硬さを増してズキズキと脈打った。
「ッ……クソ、」
危なかった。
理性の機能があと一秒でも遅ければ、間違いなくあのまま最後まで突っ走っていた。
仮にそうなったとして──今のアイツなら、俺を拒むことはなかっただろう。
ただ、ポケットの中に眠る"コレ"だけは、死んでも使いたくなかった。
『僕は今日も任務だけど、20時には帰るから。それまでに終わらせといてね〜』
その記憶とともに脳裏を過るのは、白髪を逆立てた大男の飄々とした笑顔。
軽い口調でヒョイと押し付けられたのは、薄い個包装の四角いパッケージだった。
それが何に使われるものなのか、年頃の男なら嫌でも知っている。
『…………アンタ、マジで人間性終わってんな』
『え?なんで?』
呆れ果てた俺の言葉を聞いても、あの人は包帯の奥の瞳で、こちらの動揺を透かして楽しんでいるのが分かって余計に腹が立った。
『僕ほど責任感あって誠実な人間、いないでしょ』
『心配しなくてもゴマンと居ますよ』
あの人にお膳立てされた筋書き通りに動くなんて、真っ平御免だ。
回り道で拗らせた感情がやっとの想いで交わったというのに、ここで手早くコトを済ませるなんてことはしたくない。
(………まだ、早ぇだろ)
後々、ナマエが今日のことを思い出して"身体目的"だった等と思われたら堪らない。
そもそも、そんな不安を抱かせるような真似、死んでもするつもりはないが。
(…俺が、守んねぇと)
大切にしたい。
その想いは今さら芽生えたわけじゃない。
ただ、これまでよりずっと強く、重く、その想いが胸の奥で熱を増した。
ナマエが暗い過去を振り返るときは、俺がその目を覆い隠してやりたい。
いつだって壊れかけのアイツが、笑って未来を迎えられるように───そのためなら、俺はなんだってやってやる。