第6章 堕神※
清く在ることも、正しく、潔白な巫女で在り続けることも。
本当は、あの村の境界を越えた瞬間に、すべて脱ぎ捨てて忘れてよかったはずのことだった。
人は神様になれない。
その事実を、やっと、飲み込めた気がする。
でも、故郷が異常だったとは思わない。
積み重ねられた長い歴史の中で、
何かを祀り、祈りを捧げなければ、また同じ悲劇が起こるかもしれない。
──そうやって見えない恐怖を抱きながら、必死に村を守るために根付いてきた、ただの臆病で切実な文化。
その象徴の器に、たまたま私が選ばれた。
ただそれだけのこと。
痛いことも、悲しいことも、息が詰まるほど苦しいことも沢山あったけど、それ以上にみんなの笑顔が好きだった。
平穏に過ぎていく温かい日常を眺めているだけで、たまらなく幸せだったから。
だから私は、あの日々を、そして村のみんなを恨むなんてことは絶対にしない。
「おかあさん、……私、忘れたりしないよ」
守れなかったあの光景を、犯した罪を、
血肉に刻むように心に焼き付けて、私はこれからも生きていく。
死ぬまで誰よりも苦しんで、呪いを背負い続ける。
───だから。
だから、どうか、少しの間だけでいい。
恵くんの隣で、ただの人間として幸せになることを、赦してほしい。
「────みんなを殺した"あの人"は、わたしがちゃんと、殺すから」
そう贖罪のように呟いて、私はまた、恵くんの匂いが残るブランケットを強く抱きしめた。