第6章 堕神※
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考え事をするなと言った傍から、ナマエの長いまつ毛がゆっくりと伏せられて、普段は透き通るような赤い瞳が暗く濁り始めた。
こういう顔をしているときのナマエは、大抵ろくでもないことを考えている。
(………さっさと帰ってこい)
そう告げる代わりに、腹に添えた指を動かそうとした──その瞬間。
「……おねがい、」
消え入りそうなほど小さく震えた声で、ナマエが呟いた。
一瞬幻聴かと疑ったが、不安げに揺れる赤い瞳が真っ直ぐ俺を見つめていて──考えるより先に、身体が勝手に動いていた。
「んっ……ぅ」
「…、……」
「っ…!んん、」
噛み付くように唇を重ねて言葉を塞ぎ、止めていた手は願い通り胸の突起へ。
少し芯のある柔らかなそれを指先で転がすように捏ねてやれば、苦しそうに眉間に入っていた力が、ほんの少しだけ和らいで見えた。
今のコイツに、考える暇を与えてはいけない。
一瞬でも他のことを考えさせれば、なにか良くない事に囚われてしまう。
「っ、……嫌だったら、殴れよ」
「え……っ、うん…?」
わけも分からず素直に頷いたナマエの細い身体を軽く抱き上げて、俺の膝の上からソファへとゆっくり寝かせる。
そして覆い被さるように頭の左右に手をつけば、すぐ目の前でナマエの白い喉がこくりと鳴った。
「…めぐみくん、すき」
「……、」
「だいすき」
不意打ちみたいに投げかけられる真っ直ぐな本音に、昂ぶっていた熱が一瞬だけ冷める。
返すべき言葉は、分かってる。
だがそれを口にするのは気恥ずかしくて、代わりに乱れた前髪をそっと整えてやると、ナマエは嬉しそうに目を細めて柔らかな笑みを零した。
「……だから、恵くんの全部──私にちょうだい」
「は…」
忘れかけていた熱が、一気に沸点まで跳ね上がる。
そこに深い意味なんて、きっとない。
でも──だからこそ。
ナマエが俺という存在の全てを求めているという、その事実だけで、理性が激しく揺さぶられた。
「私の全部、あげるから。……恵くんがほしいの」
ナマエの小さな手が、下からゆっくりと伸びてくる。
その手は迷いなく俺の両頬を包み込んで──それがまるで、俺の逃げ場を優しく塞いだようにも感じて、胸の奥が熱く疼いた。