第6章 堕神※
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ちゃんと機能しない頭の中で、恵くんの一言だけが、何度も、何度も反響していた。
『───好きだ』
そう言った恵くんの顔は真剣だった。
もともと、変な冗談を言うような人じゃないし、勢いだけでそんな言葉を口にするタイプじゃないことも、分かってる。
────でも、私は知っている。
その言葉に、複数の意味があることを。
「……そ、れは、……どういう、」
口から出た声は思っていた以上に震えていて、喉を通る途中で引っかかるみたいに、声が途切れ途切れになる。
聞くのは怖かった。
この先にある答えひとつで、期待も、安心も、全部まとめて壊れてしまう気がしたから。
けれど、ここでちゃんと確かめなければ、きっと私は一生この曖昧な希望と不安の檻に閉じ込められてしまう。
縋るように恵くんの服を掴んで、真っ直ぐ目を見つめると、恵くんの喉仏が小さく上下した。
「……近くに居ると目が離せねぇし、理由がなくてもお前に触りてぇ、」
恵くんは、一瞬だけ呼吸を止めるように間を置いてからそう言った。
「っ、」
胸の奥に溜め込んでいたものを一気に握り潰されたみたいに、息の仕方がわからなくなる。
赤く染った顔も、耳も、それを必死に隠そうとしているその仕草も、全部が愛おしく感じて、幸せなはずなのに、……苦しい。
「お前が他の男のこと考えてるだけでムカつくし、俺で上書きしたい……と、思って、る」
歯切れの悪い言葉。
徐々に弱くなる声。
赤く染まった頬と耳。
それを隠すみたいに伏せられた視線が、どうしようもなく恵くんらしくて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「……返事は、今度でいい。急に言われても分かんねぇだろ」
気まずそうに零されたその言葉に、私は無意識に小さく首を振った。
違う。
分かるよ。
私、昨日教えてもらったの。
理由がなくても触れてほしいと思ってしまう気持ちも、誰かに取られたくないと願う欲も、近くにいると目で追ってしまうその理由も。
─── 全部、ひとつの言葉に繋がるものだって。