第6章 堕神※
全てを忘れさせる、という名目で、俺はコイツに触れるための免罪符を手に入れた。
それを都合よく振りかざして、堰き止めていたナマエへの欲を、無意識のうちに"善意"の顔で包み込んでいた。
救うため。
忘れさせるため。
──そう言い聞かせながら、実際には自分の欲を誤魔化していただけだ。
それがきっと、ナマエにも伝わってしまっていたのだろう。
だから今、コイツは俺を見つめたまま小さく首を傾げて固まっている。
「……いや、すまん。…俺が悪い」
「…?」
順番を、完全に誤った。
忘れさせる資格だとか、触れていい理由だとか。
そんな無駄なものを並べる前に、もっと先に、伝えるべきことがあったはずだ。
「……」
俺は一度、深く息を吸って、
逃げ場を作らないように、目の前で揺れる紅い瞳を真っ直ぐ捉えた。
「───好きだ」
他人のために、自分の痛みを後回しにしてしまうところも。
誰かを恨むことを知らない、その清らかすぎる心も。
感情がすぐ表に出るところも。
泣きそうな顔も、笑う時の癖も──全部。
仮にそれが全て覆ったとしても、
俺はコイツを誰よりも好きでい続ける自信がある。
「…………え?」
ナマエは目を見開き、困ったように眉を寄せる。
開いた唇は小さく震えていて、呼吸の仕方を忘れたみたいに言葉を探している。
……ちゃんと、届いただろうか。
俺はナマエみたいに感情が顔に出るタイプじゃない。
それに、コイツ自身が『好き』の種類をまだ上手く区別できていない可能性もある。
それでも。
たとえ今後、ナマエに触れることが許されなくなったとしても。
この想いだけは、
どうしても、誤解されたままにはしておけなかった。