第6章 堕神※
こんなことを考えてしまう時点で、私は恵くんの特別になる資格なんてない。
優しくて、かっこよくて、だれよりも正義感が強い恵くんを、私の醜い独占欲で穢すことなんて絶対にあってはならない。
「…オイ、見ねぇと訓練にならねぇだろ」
映画の嬌声が止んだ後、恵くんは私の内情も知らずに、少し呆れたような声をかける。
それすらも今の私には痛くて、きっと世界一醜い表情をしているであろう自分を隠すように、さらに深く、人形へと顔を埋めた。
「……お手洗い、いってくる」
ただ顔を見られたくない一心で、それだけを絞り出して立ち上がる。
けれど、逃げるように背を向けた瞬間。
後ろから伸びてきた大きな手に腕を掴まれ、強引に行動を阻止された。
身体だけでなく、逃げようとした心まで引き戻されるようで、さらに胸が苦しくなった。
「…お前、さっきから変だぞ」
「っ……、」
…そんなの、言われなくたって私が一番分かってる。
全部、五条さんと───恵くんのせいだ。
「……体調、悪いのかも。伝染しちゃったらダメだし、今日は───」
帰って。
そう、続けるつもりだったのに。
「今ので、思い出したのか」
低い声に言葉を被され、無意識に生唾を呑んだ。
間違っていないのに、頷けば騙してしまうような気がした。
今のは、心の底から私を心配して掛けてくれた言葉だ。
でも、私は今、それを利用しようと考えてしまっている。
汚い、醜い。
こんな思考、私ごと消えちゃえばいいのに。
「……ナマエ、」
「っ、…」
優しい声で呼ばないで。
これ以上、甘えさせないで。
こんな醜い感情、一秒でも早く忘れたいの。
「……何で、震えてんだよ」
その一言のせいで視界が熱く歪み、目の縁に貯めていた涙が床へとこぼれ落ちた。