第6章 堕神※
視界を遮ったことで皮肉にも鮮やかに耳の奥へと流れ込んできたのは、男女が漏らす艶やかな嬌声。
画面の中で何が起きているのかも分からないまま、今はただ、心臓を宥めるためだけに呪力コントロールへと意識を向け続けた。
『あっ……ん、』
『どうして、あの男に易々と触れられたりしたの?』
『それは…っ、無理やり……!』
────無理やり。
劇中の些細な台詞が引き金となり、忘れたはずの苦い記憶が再び這い出してこようとする。
けれど その全てが脳裏に浮かび上がる寸前で、昨日の恵くんの手の温もりが、低い声が、ピシャリと蓋をしてくれた。
これから先、きっとあの悪夢を思い出すたびに、私はこうして恵くんの残像に助けられ続けていくのだろう。
(─……でも、もしも、)
ふと思いついた悪い思考は、掻き消えるどころか、闇の中でしっとりと質量を増していく。
『私が思い出しちゃったときは……また、恵くんが忘れさせて』
それは昨日、私が初めて彼に向けた我儘な願い事。
……もし、今。
昨日のあの"お願い"を、恵くんが本気で聞き入れてくれるのだとしたら。
『恵くんじゃなきゃ忘れられないって、思うから』
その言葉を免罪符にして、また、私に触れてくれるなら。
そうして忘れさせるための熱を私に注ぐことで、一瞬でも私と同じように、鼓動を荒立たせてくれるのなら。
……それが、恵くんの優しさを利用する行為だと分かっている。
それでも── 甘く、黒い期待が、胸の奥で静かに渦を巻いてしまった。