第6章 堕神※
重なった掌から、逃げ場を塞がれたような熱がじわりと滲み込んでくる。
その感触をどう処理していいか分からないまま、思考だけが一瞬で真っ白になった。
息の仕方すら忘れて固まる私とは対照的に、恵くんは何事もなかったかのように私の手ごと棚の取っ手を引く。
そして迷いのない動きで中からグラスを取り出し、重なっていた手は当たり前のように切り離された。
「っあ、ありがと…」
「……別に」
短いやり取りだけがこの場に残り、さっきまでの接触が嘘みたいに遠のく。
その落差に、胸の奥がひどく落ち着かなかった。
手渡されたグラスを両手で受け取り、今度こそ零さないよう慎重にお茶を注ぐ。
視界の端で恵くんが私の手元をじっと見ているのが分かって、意識がそこに引きずられた。
無言で見守られているせいか、指先にまで余計な力が入ってしまう。
…とにかく早く、いつも通りの私に戻らなきゃ。
「…貸せ」
「……あっ、」
お盆にふたつのグラスを並べ、逃げるように持ち上げようとした瞬間。
その手は横から伸びてきた彼の手によって制され、お盆はひょいと私の手元から離れていく。
「さっさと始めるぞ」
「あ………うん、」
短く言い捨てると、恵くんはそのまま足早に居間へと戻っていく。
取り残された私は熱を持った頬を隠すように俯きながら、慌ててその背中を追いかけた。
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ソファに並び、それぞれ訓練用のお人形を胸に抱える。
────と同時に、下から飛んできた一発の鉄拳を、恵くんの手が迷いなく受け止めた。
「っ…あり、がと」
「……珍しいな」
息が詰まりそうになるのを、どうにか誤魔化す。
呪力コントロールは昔から得意だったはずなのに。
感情と切り離して、呪力を一定に流す。
それだけのことが、今日はどうしても難しい。
「……いけるか」
「だ、大丈夫………たぶん」
冷静に、落ち着いて。
呼吸を深めてから床に転がった人形を持ち上げると、今度は安らかな表情のまま、私の膝の上に収まってくれた。
「映画、付けるぞ」
「うん、」
私が頷くと同時に、薄暗い室内が淡い光に照らされる。
大きなソファの上。
いつもよりほんの少しだけ距離を空けたまま、恵くんとの訓練が始まった。