第6章 堕神※
「五条さん、時間ですよ」
「ナマエまで僕を拒絶するの………」
世界が終わったかのような顔をして、私に背を向けた五条さんは、その大きな背を小さく丸めながらドアノブに手をかけた。
そのあまりにも大袈裟で可笑しな"最強"の背中を見ていたら、落ち込んでいたさっきまでの自分が馬鹿らしくて。
気づいた時には、私はその小さくも大きい背中に抱きついていた。
「行ってらっしゃい。……気をつけてね、五条さん」
それは、世界一簡単な"おまじない"。
──大好きな貴方が、無事に私のところへ帰ってきますように。
声に出せない願いを込めて、私はいつも、この背中を送り出す。
「なぁに、心配してくれてんの?」
「……うん」
必要とされていなくても、心配くらいはしたっていいでしょ。
……だって私は、五条さんの娘なんだから。
「ったく、こんなことされたら余計行きたくなくなっちゃうんだけど」
そう言って笑いながら、五条さんは私の髪をぐしゃりと混ぜると一度も振り返らずに外へと足を踏み出した。
「行ってきます」
その言葉と共に扉が閉まり、廊下に静かな余韻が落ちる。
五条さんの体温を握りしめるように手のひらを閉じた私は、ゆっくりと静かな家の中へと意識を戻した。