第6章 堕神※
「ナマエ〜?早く来ないと五条さん、このまま行っちゃうよ〜」
しばらくして、玄関から響くわざとらしく間延びした声音に思考を絶たれ、慌てて廊下へ続く扉を開いた。
「あ……おは、よ」
「……はよ」
途端、玄関で立ち竦む恵くんと視線が絡み、昨日の出来事が鮮明に脳裏をよぎって無意識に目を逸らしてしまった。
「あら〜〜!!ナマエ、照れてんの?なんで?ねえ、なんで?」
「〜〜っっ!!!」
教えたのは五条さんなのに。
わざとらしく揶揄うその声にまんまと乗せられて、顔が一気に熱くなる。
このまま扉を閉めて逃げ出したい気持ちは山々だったけれど……次に五条さんに会えるのがいつになるか分からない不安が勝り、俯いたまま玄関口へ向かった。
「ナマエ〜???ほら、なんでなの?言ってみ??」
「言わない!!行ってらっしゃい!!」
「ナマエが…、怒ってる……」
込み上げる恥ずかしさと悔しさをごまかすように、私は五条さんの胸に飛び込んだ。
自分でも驚くほど語気が強くなってしまった。
私が五条さんに苛立ちを覚えるなんて、今まで一度も無かったはずなのに。
「あ〜………やっぱり今日も、有給取ろうかな」
「伊地知さん、下で待ってますよ」
「………はあ???」
恵くんの冷ややかな一言に噛みつきながら、五条さんは私の身体をぎゅっと抱きしめ返す。
「僕を追い出そうなんて百万年早いんだけど。てかココ、僕らの家だからね?」
「誰も追い出そうとなんてしてません。早く行ってください」
「それが追い出そうとしてるっつってんの!!」
「はぁ……」
呆れたように溜息を吐いた恵くんは、そのまま何も言わず先に居間へ向かってしまった。
「恵!!!ナマエと仲良くするんだよ!!」
背中越しに投げかけられた怒気を孕んだ声。
返事の代わりに聞こえてきたのは、わざとらしく大きく閉められた扉の音だけだった。
「反抗期こわっ」
「ふふ」
そんないつもの日常にふっと肩の力が抜けた私は、五条さんの背に回していた腕の力をそっと緩める。
ふと玄関の時計に目を向ければ、無情にも秒針は進んでいて、
事前に聞いていた集合時間がもうすぐそこまで迫っていた。