第6章 堕神※
翌朝。
─── ピーンポーン
インターホンの呼び出し音が鳴り、慌ててモニターまで駆けつけると、そこには恵くんがカメラから視線を逸らして立っていた。
「っ……、」
画面に映ったへの字口の彼に胸を締め付けられながら、私は応答ボタンを押す。
「はい、」
「……俺」
「あ、開けるね」
相変わらず、いつも通りぶっきらぼうな声に頷きながらオートロックの解錠ボタンを押すと、画面から恵くんの姿が消えた。
……結局、昨日はあまり眠れなかった。
五条さんの言う"男として好き"の意味を考えて、考えて───結局ネットに頼ってしまったけれど、それが何なのか理解した。
してしまったから、眠れなかった。
もう、今まで通りの顔で"彼"に会える自信がない。
「あれ、恵もう来たの?早いね〜〜」
「っ!!」
仕事着に着替えた五条さんが、目元に純白の包帯を巻きながら居間へ戻ってくる。
ドキン、と異常に跳ねた鼓動が、口から飛び出してしまったんじゃないかと錯覚するほど喉の奥が熱い。
「ナマエ、寝不足?」
「えっ!?あ、えっと、……ハイ」
「カタコトじゃん、ウケる」
くしゃりと私の頭を撫でた五条さんは、珍しく「恵のお出迎えしよ〜」とボヤきながら玄関へ向かう廊下へ消えていった。
五条さんに嘘は通用しない。
それは、昨日の一件で嫌という程思い知らされたこと。
私は、あの"目"にめっぽう弱いのだ。
射抜かれれば思考が凍りつき、願うように細められれば全てを白状してしまう。
きっと五条さんも、それに気づいてしまった───いや、もしかしたら最初から分かっていたのかもしれない。
「…………ズルいなぁ、」
私は五条さんのことを殆ど何も知らないのに、五条さんは私のすべてを暴く術を持っている。
私だけが筒抜けで、見透かされて、一方的に守られるだけ。
私だって五条さんの事を知って、あわよくば守りたいと願っているのに。
(……でも、五条さんは"最強"だから、)
私なんて必要ない。
辿り着いた結論が、鉛のように重く心に沈殿する。
村を離れたあの日からずっと、私は誰かに必要とされることを渇望していた。
何も。
誰も。
守れなかったくせに。