第5章 オーバーライト※
半年前、男に触れられた嫌悪感から、自分を傷つけることでしか逃げられなかったナマエ。
そんなナマエが「嫌じゃなかった」と口にする重みは、何物にも代えがたかった。
恵の献身的なケアが効いていたのだろう。
僕の出る幕なんて、最初からなかったのかもしれない。
……それでも、ナマエの親として何もしない理由にはならないけど。
「ふぅん?へぇ〜〜?」
「な、なに…?なんでそんなに嬉しそうなの?」
「いや?ナマエにも、ついに春が来たんだなぁって」
「もう7月だけど………?」
そのキョトンとした表情に、少しだけ毒気が抜かれる。
ああ、やっぱりこの子は僕が守ってあげなきゃいけない、純粋な僕の娘だ。
けれど、甘やかすだけで呪いが解けないことはもう分かっている。
僕は、何があってもナマエの揺るがない居場所で居続ける必要がある。
そのために、僕がこの子に手を出すことは絶対に有ってはいけない。
これは、僕自身が決めた聖域だ。
だからこそ、恵がナマエの呪いを浄化できる唯一の鍵ならば、それを委ねるのが"親"としての最善。
「ナマエ、恵のこと好き?」
「はい、好きです」
ナマエは当たり前のように、混じりけのない声で言い放つ。
どうしてそんなこと聞くの、と言いたげな表情で首をかしげるナマエに、僕はほんの少しの助け舟を出してやることにした。
(ま、恵には後でたーーっぷりと借りを返してもらうけど!)
そんな冗談を思考に混ぜながら、狂おしいほど愛しいナマエを、一人の少女へと変えてやるための覚悟を固める。
これこそが、ナマエを救うと決めた僕が選ぶべき、最善の"親愛"なのだから。