第5章 オーバーライト※
僕の目を見つめたまま、ナマエが動かなくなって数秒。
言葉を探すように口を開いては閉じる、その仕草があまりにも分かりやすくて、口角が緩む。
「ナマエ、お返事は?」
「っ……ぁ、…」
顔を真っ赤にして唇をきゅっと結び、僕から視線を逸らすナマエ。
眉間に寄った皺を軽く指で弾いてやると、びくりと肩を震わせて、その瞳が渋々こちらを向いた。
「な、何にも……」
「へぇ?」
ナマエは、僕に嘘がまかり通ると思っている。
夜中にこっそりお菓子を食べた時も、
怖い映画を見て眠れなくなった時に僕の布団に入り込んで来た時も。
「食べてない」「間違えちゃった」と苦い顔で言うその嘘を、笑って見逃してやっていたから。
────でも。
「嘘は良くないね?」
「っ……!」
少し可哀想だけど、今はそんな気分じゃない。
ナマエの呪いを解く方法が分かった今、僕は判断を迫られている。
ナマエから手を離して、恵に委ねてもいいのか。
その資格が、恵にあるのかどうか。
「じゃあ、質問を変えようか」
その判断材料として必要なのは、たった一つだけ。
「恵に何かされて、──嫌だった?」
僕の問いに、ナマエの肩が小さく跳ねる。
脳裏に焼き付いた恵の熱を、ナマエの記憶がなぞっているのが手に取るように分かった。
(……さて)
サングラスの奥で目を凝らし、ナマエの全てを見逃さないよう観察する。
もし、ナマエが少しでも"嫌だった余韻"を見せるなら、僕は今すぐ恵を呼び戻して叩きのめす。
───でも、もしそれが見えなかったら。
僕は、ナマエを解放してやらなければならない。
「嫌じゃ、なかった………です」
「……」
想像していたよりもずっと早く、そして迷いのない返答に、一瞬だけ思考が止まった。