第5章 オーバーライト※
眉を下げたまま俯くナマエは、僕の顔色を伺うように時折ちらりと視線を上げながら、大人しく撫でられている。
その視線に滲む罪悪感と不安が痛いほど伝わってきて、ついに耐えきれなくなった僕は そっとナマエの頭から手を離した。
「ほら、おいで」
そう告げながら両腕を開けると、ナマエはおずおずと僕の様子を伺いながら腕の中に収まりにきた。
最近は激務と憂太の転入が重なって、なかなかこうして甘やかしてあげる時間も作れなかった。
それでも、ナマエの身体の呪いを解く方法を考える時間は、当然減らさなかった。
僕がナマエの"家族"であり、"居場所"であり、この子を救う唯一の存在でありたかったから。
それなのに───恵に先を越されるなんて。
「紅茶も美味しかったし、ケーキも食べたいの食べられたから」
「ほんと?」
「ホント。僕のこと信じて」
そう告げながら、頭の中で広がりつつある想像から逃げるようにナマエの肩口に額を擦り付けた。
ついでにナマエの香りで逆立った神経を鎮めようと、深く息を吸い込んだ──その瞬間。
鼻腔を掠めたのは、ナマエ自身の甘い香りだけじゃなかった。
それが誰のものかなんて、考えるまでもない。
「ナマエ」
「…?」
ゆっくりと身体を引き離しながら名前を呼ぶ。
さっきの弁明を自分自身で裏切るように、僕の声は低く、冷たく響いた。
ナマエは僕の表情を見てぴくりと肩を強張らせ、僕の中に渦巻く感情を察したように息を呑む。
「今日、恵と何があった?」
サングラスを指先で外し、逃がさないと言わんばかりに蒼い視線でナマエを射抜く。
ほんのり赤く腫れた唇──そこへ確かめるように指を添わせてやれば、ナマエは記憶に煽られたように一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。