第5章 オーバーライト※
この人のことだ。
ナマエの中に澱む"呪い"を消す方法を探し続けていたに違いない。
それが今日、
ナマエは突然"減らして"帰ってきた。
今日の俺にできて、今までの五条さんに出来なかったことなんて、ひとつしか思い当たらない。
「恵」
「…、」
「ナマエに、何したの」
圧と共に強められた呪力が、空気を押し潰す。
五条さんがナマエに向ける感情は、"過保護"という言葉だけでは片付かないほど重い。
「……別に、何も」
この人にバレたら厄介だ。
そう判断して、できる限り感情を削ぎ落として答えた。
けれど五条さんはサングラスをかけ直し、喉を鳴らすようにクツクツと笑う。
「お前もナマエに似てきたのかねぇ」
「なんの事ですか」
「言葉の通りだよ。ナマエが分かりやすい性格してるのは、恵も昔から知ってるでしょ」
「……」
あの空き教室を出てから、ナマエとは顔も合わせず、一言も交わさずにここまで来た。
表情は見ていない。
けれど───想像がつかないほど鈍くもない。
そもそも、その状態のナマエを一人で帰すのが嫌で迎えに行ったんだ。
「あんなに蕩けた顔しちゃって。いったいナニされたんだか!」
「………」
この人は、いつもこうだ。
自分の中ではとっくに答えが出ているくせに、
わざとこちらの口を開かせようとする。
本当に性格が悪い。
今日、改めてそう思わされた。
「せっかくだし、恵もケーキ食べて帰りなよ」
そう言い残した五条さんは、何事もなかったかのように俺に背を向けて居間へと向かう。
「ナマエ〜!久々に"おかえりなさい"のハグして〜!!」
廊下と居間を仕切る扉が閉まった途端、中からは親子さながらの遠慮のない声が聞こえてきた。
俺は一度だけ視線を落とし、小さく息を整えてから靴を脱いで、居間へ向かう廊下を進んだ。