第5章 オーバーライト※
コイツはただ、俺に言われて指示通りに手を引いただけだと分かっている。
……それでも。
無自覚な嫉妬に苦しんでいたくせに、少しの接触だけで満足して離れていくのが、堪らなく気に入らなかった。
「…こんだけで、満足すんな」
逃がさないように手首を掴んだまま、コツン、と額を合わせると、時間が止まったようにナマエが動かなくなる。
「っ……ぅ、」
至近距離で見つめ合う中で、やがて何かを思い出したようにナマエの頬が赤く染まり始めた。
「……めぐみくんの、えっち」
震える声でそう零し、目線だけを彷徨わせる様子をふっと鼻で笑う。
そして、さっきまでナマエが無邪気に触れていた方の手を、今度は俺から、その熱い頬へ滑らせた。
「っ、」
途端に、弾かれたようにぎゅっと目を瞑るナマエ。
これから自分に何が起こるのかを悟り強張るその身体に、柄にもなく口角が上がった。
「お前こそ、何思い出してんだよ」
「う゛……」
色気のない呻きと共に、ナマエの目が眼鏡のレンズ越しに薄く開かれる。
潤んだ瞳が目に入った瞬間、俺の視界を遮る無機質なフレームがひどく鬱陶しく感じられた。
(……邪魔、)
ナマエの瞳を守るようにかけられた眼鏡に、心の中で舌打ちをする。
俺は一度ナマエから額を離し、指先でそのフレームを掬い上げ頭頂まで持ち上げた。
遮るものがなくなった瞬間。
露わになった縋るような赤い瞳が、真っ直ぐに俺を捉える。
その瞬間。
「…、」
「んっ……」
俺はその無言の期待に答えるように、今度は容赦なくナマエの唇を塞いだ。
吸い付くような柔らかな弾力と、俺の名前を呼ぼうとして開かれた口内から溢れる甘い熱。
薄く目を開けて伺えば、ナマエは震える睫毛を伏せて、されるがままに俺を受け入れていた。
嫌がる素振りなんて微塵もない。
むしろ、もっともっとと深く欲しがるように俺の服を掴むその指先に、俺の理性が深く沈んでいくのを感じた。