第5章 オーバーライト※
早足に廊下を歩けば、見失った筈の桃色の髪はすぐに見つかった。
「ナマエ」
「っ…」
背後から声を掛けると、ナマエはビクリと大袈裟に肩を揺らしてからその場で足を止める。
「……人違い、です」
「何言ってんだ」
金髪は多いが桃色の髪はお前だけだろ、と心の中でツッコミつつ、こちらを向かないナマエの正面へと回った。
「………………、」
「…オイ、だからその顔やめろって」
顕になったナマエの表情は、後ろめたいことがあった時にするそれだった。
話しかけられたくありません、と書いてあるようなその顔も、もう随分と見慣れた。
「メッセージ見ただろ」
「………見てない」
「見てんじゃねぇか」
「………」
なぜバレないと思うのか問いたくなるほど、ナマエは昔から分かりやすい性格だ。
さっきの癖と、図星を突かれると顔を窄める癖。
変に隠すのが上手くなっても面倒だし、今更教えてやる気もないが、生き辛そうだなと不憫に思うことはよくある。
「何か用でもあったのか?」
「……あ、る」
「ないだろ、それ」
表情が変わらない当たりを見ると、まだ姿勢を変えるつもりはないらしい。
どう降参させようか悩んでいたその時。
「…何かあるのは、恵くんの方でしょ、」
今度は口を尖らせたナマエが、小さな声で呟いた。
「何の話だよ」
心当たりがなく聞き返すと、ナマエは視線を右往左往させながら片手で髪を弄り始める。
「………お、女の子と、手、繋いでた」
また、思考がフリーズした。
まさかあれを見られているとは思わなかった。
とはいえ、強引に触れられただけだというのに、それを俺が合意していたように言われるのは癪に障る。
「あの子クラスで人気なんだよ。可愛いし…お胸も、おっきいって、」
その言葉に、デカいため息が出そうになった。
恐らく、ナマエはあの女が俺に言い寄っていた理由が、恋愛感情から来ていると思っているのだろう。
「……で?」
俺が一歩だけ距離を詰めて続きを促すとナマエは驚いたように瞬きをした。
「それで、何が言いたい」
「……え」
「お前が言いたいことはそれだけか?」
「…っ」
ナマエの唇が何か言いたげに開いて、すぐに閉じられた。