第5章 オーバーライト※
◆
ホームルームが終わってすぐ。
ナマエを家まで送るために、一通のメッセージを送った。
意味もなく誘ったわけじゃない。
ただ、さっきの顔でその辺を彷徨われると厄介だからだ。
あの時。廊下で名前を呼ばれた気がして教室から出て、心臓が冷えた。
真っ赤な顔で男を見上げるナマエと、そんなナマエに見惚れた奴の顔。
やっと忘れさせてやる準備が整ったというのに、また他の男に塗り替えられたら意味がない。
「あっ、伏黒じゃん!」
携帯を弄りながら、ナマエの教室前でその姿が現れるのを待っていたとき。
一人の女が、俺の前に立ち塞がった。
「何してんの?てか今日のバスケ、超カッコよかった〜!」
「……」
誰だっけ、コイツ。
俺は交友関係が広くない。
だから話したことがあったかどうかすら疑問だ。
「伏黒、手おっき〜よね!」
俺が無視していることも気にせず、女は俺の空いた片手に手を伸ばしてくる。
「……オイ、触んな」
「え〜いいじゃん、これくらい」
軽く払い除けるが、そいつは懲りずに口角を緩めて俺の手を取った。
もう一度振り払おうとしたその動きに気づいたのか、今度は指を絡め取られて短くため息が出る。
「ねえ、伏黒〜。連絡先教えてよ」
「…、」
視線を携帯から女へ移した、その瞬間。
見慣れた桃色の髪が、教室を出ていくのが視界の端に映った。
(……は??)
一瞬、思考が止まった。
俺の方を一切見ないまま、足早に廊下の人波に紛れていくナマエの背中。
俺のメッセージを見ていなかったのか、それとも余程重要な用事があったのか。
後者なら、一言くらい掛けてから行くはずだ。
「ねえ、連絡先──って、ちょ、はぁ??」
絡め取られていた指に力を込めて無言で振りほどくと、女は顔を歪めて俺を見上げた。
さっきの作られた表情とは大違いで、笑いそうになる。
「興味ねぇ」
「なっ……!!」
簡潔に一言だけを告げ、俺は持っていた携帯をカバンの中に雑に突っ込んだ。
「私だって興味ないし!!自意識過剰!バッカじゃないの!!」
そしてその場で吠えてる女に振り返ることもせず、俺はナマエが消えた方へと足を進めた。