第5章 オーバーライト※
放課後。
ホームルームが終わってすぐに、携帯が短く震えて一件の通知を知らせた。
"教室まで迎えに行く"
画面に表示されたのは恵くんからの連絡だった。
普段は私がどれだけ誘っても付き合ってくれることはなったから、こんなことは有り得なくて。
初めての誘いに口角を緩ませながら帰り支度をすすめる。
「藤沼さん、また明日!」
「ナマエちゃん…!気を付けてね!」
「ふふ、藤沼さんも気を付けて帰ってね」
スクールバッグを肩にかけて藤沼さんに挨拶をし、扉の端から覗くツンツンした髪の彼を脅かそうと足音を潜めて近づいた時だった。
「あっ、伏黒じゃん!」
嬉々とした女の子の声音に、ぴたりと足が止まる。
「何してんの?てか今日のバスケ、超カッコよかった〜!」
「……」
そっと角度を変えて教室の外を見ると、女の子が恵くんに話しかけていた。
その子は、さっき私に恵くんのことを聞いてきた、可愛くて、明るい女の子。
「伏黒、手おっき〜よね!」
「……オイ、触んな」
そう言いながらも、手を振り払う力は強く見えなかった。
「え〜いいじゃん、これくらい」
その弱い拒否のせいか、彼女は何の躊躇いもなく恵くんの手を取り、そのまま自分の手と重ねると、また逃げようとする恵くんの手を指で絡め取った。
「………」
恵くんの顔は、髪に隠れて見えなかった。
無理やり振り払わないのは、その子が可愛いから?それとも、本当は嬉しいから?
そんなことを考えていると段々二人を見ているのが辛くなって、視線が床に落ちる。
「…ナマエちゃん?」
「……あ。ごめん、ぼーっとしてた!」
背後から藤沼さんに肩を叩かれ、心臓が跳ねる。
無理に作った笑顔は、きっとひどく歪んでいたと思う。
首を傾げる藤沼さんに「じゃあね」と声をかけ、私は恵くんが居ない方の出口から教室を出た。