第5章 オーバーライト※
質問の嵐に晒され逃げ場のない椅子の上で縮こまっていると、ふっと周囲の温度が変わった気がした。
「あ、じゃあさ、」
その声に顔を上げると、一人の女の子が声のトーンを落として身を乗り出し、私に顔を寄せた。
さっきまでの騒がしさとは違う、探るような、期待を孕んだような視線に身体が強ばる。
「伏黒の好みのタイプ、知ってる?」
「え…」
「も〜!女のタイプだよ!どんな子が好きそうとか……ないの?」
笑い混じりの声なのに どこか真剣味を感じて、胸の奥がざわつく。
「なんで、そんな事…聞くの?」
動揺を悟られないように、必死に声を整えて問い返す。
するとその子は少し頬を染めて、いたずらっぽく笑った。
「……ここだけの話、私、伏黒のこと気になってたんだよね。
伏黒あんなにかっこいいのに全然ガード緩めないじゃん? 攻略方法、持ってないかなーって」
周りの子たちが「いいじゃん!」「分かる!」「教えてよ!」と囃し立てる。
教室が、急に遠く感じた。
───攻略方法なんて、知ってるわけない。
恵くんの好きな女の子のことなんて考えたことも無かったし、話したこともないんだから。
…それに、もし知っていたとしても────。
「……わかんない、かな」
喉の奥までせり上がってきたドロリとした感情を無理やり飲み込み、掠れた声でそう答えるのが精一杯だった。