第1章 旅立ち
噎せ返りそうなほど生々しい臭いが、村中に蔓延っている。
重くて、息を吸うたびに肺の奥まで侵してくるような臭い。
それが村の皆のものだと思うと、余計に息が苦しくなった。
うまく息が吸えなくて、胸が締めつけられて。
まるで皆に、早く出ていけと言われているような。
とても優しくて、暖かかった皆。
村を歩けば野菜をくれたり、果物を分けてくれたり。
私が神楽を踊る時には必ず神社に足を運んでくれて、毎回「前より上手に踊れていましたね」と褒めてくれた。
だから私は皆と離れたくない。
……ずっと、ずっとこの村に居たい。
それなのに、この村はもう私を拒んでいる。
弱くて、何ひとつ、誰ひとり護れなかった私を。静かに、でも確かに、拒んでいる。
「っ……わたし、まもれなかった…」
ずっ、と洟を啜りながら零れた独り言に、五条さんの腕がわずかに揺れた気がした。
私にしかできなかったこと。
私だからこそ出来たはずのこと。
それを全うできなかったせいで、大切なものは何ひとつ残らなかった。
「よわくて、ごめんなさい…っ、私にしかできない事だったのに、……みんなっ、ごめ、なさ………、っ」
自責の念に押し潰されそうになりながら、ぎゅうう、と五条さんの服を握りしめる。
目を強く瞑った、その瞬間。
ふっ、と前髪を揺らすように、息が落とされた。
驚いて顔を上げると、五条さんは私を見るでもなく、前を向いたまま淡々と告げる。
「子供は難しいこと考えなくていーの」
その声は軽くて、なのに妙に逃げ場がなくて。
私は唇を噛みしめたまま、彼の横顔を見つめた。
「君は頑張ったよ。君が居なかったら被害は村だけじゃ済んでないからね」
「……でも」
「それでも納得いかないって言うなら、強くなりな」
不意に、五条さんの顔がこちらを向く。
私は反射的に目を見開いて、止まらない涙が首元まで伝った。