第1章 旅立ち
「あ。そーいえば自己紹介してないじゃん。そりゃビビるよね〜!ほら、伊地知。自己紹介」
「は、はい!?私からですか!?」
伊地知と呼ばれたメガネの人は、少し慌てた様子で私を見上げる。
「私の名前は伊地知潔高。……補助監督です」
「補助監督とか言ってもわかんないでしょ。伊地知って馬鹿なの?」
くるっと身体を後ろに向けて、私を抱えている人はそう言った。
実際、「補助監督」という言葉の意味は分からなくて、私はただ首の奥で小さく疑問を転がす。
「ま、そのうち分かるようになるよ」
そう言って、サングラスの人は私の身体を俵担ぎから横抱きに変えた。
急に近くなった距離に、息が詰まる。
サングラスの下から覗く蒼い目と視線が重なって、胸がドキッと跳ねた。
思わず顔を逸らすと、その人は楽しそうに笑う。
「照れてんの?」
そして、何でもないことのように名前を名乗った。
「僕は五条悟。君と同じ呪術師だよ」
"呪術師"。その単語に、無意識に肩が揺れた。
「……呪術師なんて、もう、きらい」
「へぇ、」
五条さんの口角が、ほんの少しだけ上がった気がした。
「僕もきら〜い。君とは気が合いそう♡」
五条さんは、うんうんと大げさに頷きながら、やけに甘ったるい表情を私に向けてくる。
「……いっしょに、しないで」
「えー、釣れないねぇ。今どきの小学生は皆こんな感じなの?」
「…、」
にやにやと見下ろしてくる視線が、ひどく居心地が悪い。
私は耐えきれず、また五条さんから目を逸らした。
静かになると ぴちゃ、ぴちゃ、と足元で水を踏む音がいやに響き、
同時に脳裏に焼き付いた皆の死に際の顔が鮮明に蘇る。
怖くなった私は、無意識のうちに、私を抱き上げる五条さんの服をぎゅっと握っていた。
「そうそう。子供はそうやって甘えてりゃいーの」
よく出来ました、と言わんばかりに歯を見せて笑われる。
その瞬間、自分の眉間に皺が寄ったのがわかった。
同時に視界が滲み、ぼた、ぼた、と頬を伝うものが落ちる。
それが涙だと理解するのに、時間は要らなかった。
「な〜に泣いてんの。まだこんな血腥いとこに居たいとか言わないでよ?」
誰にも見られたくなくて、ぐしぐしと装束の裾で涙を拭う。
すると、頭の上から相変わらず陽気な声が降ってきて、私は無意識に唇を強く噛んだ。