第1章 旅立ち
喉の奥がひくりと鳴って、息がうまく吸えない。
身体が宙にある感覚だけがやけに現実味を帯びていて、指先は強張ったまま動かなかった。
「はい、よちよち。一緒に帰りましょうね〜?」
「え…?」
身体が浮いて、もう殺されるんだって思ってた。
胸の奥で覚悟だけが先に固まって、次に来るはずの痛みを待っていた。
それなのに────
どれだけ待っても、痛みは来ない。
私は恐る恐る瞼を持ち上げて、状況を理解しようとした。
「あ、巫女さん俵担ぎしたら祟られたりする?」
「そんな話聞いたことありませんよ…」
「だよね。僕も聞いたことない。じゃ、このまま行くよ」
目を開けて最初に視界に入ったのは、困ったような表情をしたメガネの人だった。
その人は、私が目を開けたことに気づいたのか、少し驚いたあとでへにゃ、と力の抜けた笑顔を向けてくる。
その笑顔が、余計に分からなかった。
怖いはずなのに、怒ってもいない。
痛めつける様子も、突き放す様子もない。
……どうして?
私はたぶん、どこか知らない場所に連れていかれる。
村じゃない、知らないどこかに。
それで使われて、最後には殺される。
私を見て笑うのは、逃げ出させないため───そう思った。
「この子以外は全滅っぽいね。伊地知、アレだけ回収するように手配しといて〜」
「は、はい…!あぁ…でも先ずは上層部に生存者の連絡を…」
「は〜?オマエ真面目かよ」
「仕事ですから…………」
げぇ〜と舌を出したサングラスの人は、私を担いだまま神社の階段を下りていく。
腰を抱えられて、肩に担がれているこの距離が、ただただ怖い。
逃げたいのに、身体は動かない。
私は瞬きを繰り返すことしか出来なかった。