第5章 オーバーライト※
試合開始の掛け声が響く中、他のチームがボールを持ってコートを走り回る。
私はその様子を、首を右へ左へと忙しなく動かしながら追っていた。
どれだけ目で追っても、自分がボールをつきながら動いている想像ができない。
そもそもボールを真っ直ぐ投げることが出来るかすら怪しいのに、ドリブルやシュートが出来るはずもない。
「う゛〜……無理かも…」
思わず零れた本音に、隣で藤沼さんがくすりと笑う。
「同じチームだし、頑張ろうよ」
「うん……、それだけが救い…」
ありがとう、と藤沼さんの手をぎゅっと握ると、彼女は少し驚いたあと「こちらこそ」と柔らかく笑ってくれた。
戦力にならない私と同じチームになって、それでも文句ひとつ言わずに一緒にいてくれる藤沼さんには感謝しかない。
「ほら、終わったみたい。次は私たちだよ!」
立ち上がった藤沼さんに手を引かれ、私は半ば引きずられるようにコートの中央へ向かう。
整列した瞬間、先生の警笛が短く鳴り、空気が一気に張り詰めた。
ボールが床を打つ音。
運動靴が擦れる音。
歓声と指示が入り混じる。
(奪える気がしない……)
ボールを狙って無理に体を寄せて、当たりどころが悪くて相手を怪我させたりしたら。
そんな想像だけで足元が凍りつく。
うん、これは何もしない方が────
「伏黒!!頼む!!」
「────、」
離れたところから恵くんを呼ぶ声が響き、それにつられるように私の視線もそちらへ向いた。
汗を滲ませながらボールを持ち、迷いなくスリーポイントラインからシュートを放つ恵くん。
弧を描いたボールは綺麗にリングへ吸い込まれた。
(…………かっこいい)
普段は見られないその姿に、思わず息を忘れて見入ってしまった、その瞬間。
「さん…!!」
─────バンッ
「え゛っ」
鈍い衝撃が顔面を打ち抜き、視界がぐらりと揺れた。
何が起きたのか理解するより先に、身体が前のめりに倒れる。
(あ、せっかく私にパス………くれたのに、)
そう思ったときには、もう床の冷たさが頬に伝わっていた。