第4章 『やくそく』
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恵と別れたあと、僕とは高専の空き教室に入った。
僕は教卓の前に立ち、を生徒用の椅子に座らせる。
距離は近すぎず遠すぎず——説教にはちょうどいい。
教卓に肘をつき、自然と見下ろす形になる視線でを捉えた。
「自分でもわかってると思うから、責めるつもりはないよ」
俯いていたの視線が、ゆっくりと持ち上がる。
疑いつつも縋るような目に父性を刺激されて、話の軸がずれそうになるのをグッと堪えながら話を続けた。
「でも一つだけ」
「……っ」
芽生えかけた感情に蓋をしてそう告げると、の身体がほんの少し強ばった。
「あの術式の使い方、誰に教わった?」
僕の目をかいくぐった上の連中か。
それとも、あの閉じた村の大人たちか。
どちらにせよ、の性格を思えば悪影響でしかない。
「教わったというか……その、自分で、」
「……へえ」
予想外の返答に、ほんの一瞬、言葉が詰まる。
やっぱりは、僕がこれまで見てきたどの術師よりも遥かに度を超えて────イカれてる。
の呪力コントロールは出会った時から異常なほど安定していた。
特殊な"目"の恩恵もあるだろうが、それ以上にどれだけ自分の術式と向き合ってきたかが、嫌でも伝わってくる。
とはいえ自分の体内に呪力を付与するなんて、並大抵の術師なら本能的に避ける選択だ。
「……物に呪力を付与するより、自分の身体に付与する方が簡単なんです。だから、そうしてただけで……」
他意はないと伝えるように、は小さな声で呟く。
けれどその"だけ"を選べるのが、どれだけ異常で、どれだけ危ういか。
でも、はそれを理解した今でも、誰かのためなら迷わず同じ選択をする。
「五条さん。術式を使いすぎたら、私は────」
「呪霊にはモテるだろうねぇ」
重くなりかけた空気を、冗談でねじ伏せる。
に、人以外の生き方を選ばせる気なんて毛頭ない。
僕の人生を賭けてでも、この子は人間だと証明してみせる。
——そのために
上の連中から、の術式を隠し続けているんだから。