第4章 『やくそく』
「……っ、ごめ……」
の顔がゆっくりと持ち上がり、涙で濡れた熱い頬が俺の手のひらに小さく擦れた。
の潤んだ瞳が俺を見あげ、生ぬるい空気が場を包んだ時。
「恵にしては頑張ったね。うん、及第点だけど」
五条さんの軽口に、張りつめていた空気がほんの少しだけ緩む。
「…ちょっと黙っててください」
「はいはい」
五条さんは軽く両手を上げ、一歩だけ距離を取った。
そんなやり取りの隙間で、の嗚咽が、少しずつ静まっていく。
が落ち着くまで、俺は手を離さなかった。
抱きしめることはしない代わりに、お前の傍には俺がいると伝えるように。
——無事でよかった。
そしてその言葉を、もう一度、胸の中で繰り返した。
・
・
・
「さてと」
乾いた音を立てて、五条さんが軽く手を叩きながら呟いた。
その音に引き戻されるように、俺はの頬から手を引く。
指先に残った感触は、できるだけ意識しないようにした。
「恵は念のため硝子に診てもらってきな」
相変わらず軽い口調なのに、有無を言わせないところが五条さんらしい。
俺は返事の代わりに小さく頷き、ちらりとに視線を向けた。
「は僕と"お話"だ。いいね?」
「……はい」
「ん、いい子」
五条さんからの鋭い視線が向けられた瞬間、の身体がほんの僅かに強張る。
"話"の内容が気にならないわけじゃない。
けど、それを今ここで聞くのは違う気がして、俺は何も言わなかった。
「…行ってくる」
そう告げて足を踏み出すと、は眉尻を下げ、心配そうにこちらを見る。
「…大丈夫だ。怪我してねぇから」
それは事実でもあったし、
何より——の顔を曇らせたままにしたくなかった。
案の定、あいつは少しだけ目を瞬かせて、眉尻にかかっていた力が ほんのわずかに緩む。
「じゃあな」
その表情に、ようやく息を吐いて足を踏み出せた。
そして医務室へ続く廊下を歩きながら、
さっきまで触れていた温もりを意識の奥へ押し込んだ。