第4章 『やくそく』
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「ほら恵、ここは抱きしめるとこでしょ。何してんの?甲斐性なしなの?」
両手で涙を拭い続けるを見ていると、隣から小声で五条さんにつつかれる。
余計な提案と共に。
「……うるさ」
「え、今なんて????」
俺はそういうタイプじゃないって分かって言ってんだろ、この人。
……でも、をこのままにもしておけない。
「…誰も迷惑だなんて思ってないし、怪我人もいない。お前が責任を感じる必要、ないだろ」
そう言いながらに歩み寄り、下を向いて顕になった頭頂に手を乗せる。
ひくりと肩が揺れ、の喉から小さく息が漏れた。
「……っ、」
は俺の手を拒むでもなく、縋るでもなく、ただその場で俯いていた。
こいつは昔から、他人を守ることに重きを置いている。
全部を救うことは不可能だと気づいているくせに、知らないフリをして、自分の手のひらから零れ落ちたものにばかり目を向ける。
少しは、残った方を見たっていいというのに。
「……お前がいなくなったら、それこそ迷惑だろ」
俺は手を離さず、指先にほんの少しだけ力を込めた。
ずっとを見てきた。
だからこそ、見捨てろとは言えない。
でも、誰かを助ける度にお前が傷つくのを、俺は見たくない。
「……津美紀が起きた時、俺だけじゃダメだ」
ぽつりと零した言葉が、思っていたより低く響く。
津美紀のことが、自分でもまだ整理がついていないのだと改めて気づかされた。
「だから、お前一人で全部を救おうとするな」
命令したいわけでも、説教でもない。
だから、声を抑えて呟いた。
「……俺のことも、頼れ」
これが独りよがりな我儘だと分かっている。
それでも───お前が一人で傷つくのは、嫌だ。