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アブシールの英雄

第8章 第八話


「…このような所にいては危険だ、シンフォニア」

訓練場の手前の部屋で、雑巾掛けをしていたシンフォニアを見つけ、ユリウスはいそいで声をかけた。

「はい…。でも、なかなかお掃除できなくて困ってます。やる方もいないので…」

そう言って、彼女は辺りの汚れている場所を見る。

「その身に何かあれば、将軍が悲しむ。…私も、辛い」

ユリウスは辛そうにそう言うと、

「…ユリウス様?」

と、心配そうにシンフォニアは覗き込んでくる。


「いや…

掃除が終わるまでここで待つ。やりにくいか?」

ユリウスは眼を逸らして、そう提案する。

「まあ、そのような…

私のお掃除のお待たせをするなんて…」


シンフォニアは少し戸惑ったように言うと、ユリウスは、


「私がここにいたいんだ。いさせて欲しい」

まるで懇願のように言った。

「…

はい。では、お言葉に甘えて…」


こうして二人でお掃除をすることになった。(シンフォニアは、ユリウスがお掃除することが申し訳なさそうだったが。ちなみに、あまり手際よくはできない)

箒で床を二人で掃きながら、ユリウスは話し始める。

「貴女はまだ若いのに、このようなことを言うのは失礼かもしれないが…

貴女を見ていると、まだ子どものころ、母を見つめていた時の気持ちを思い出す」


「…お母様はお国にいらっしゃるのですよね。病気などはされていませんか?」

シンフォニアは埃をちりとりで取りながら聞く。

「…どうだろう。

私は家を出て、もう二年近くになるが、母に便りを出したことは一度もない。

子どものころ、私は母を心から尊敬していた。愛していた。…なのに…」

ユリウスは昔を思い出して目を細めていたが、不意につらい記憶を思い出したのか表情が曇る。

シンフォニアは、そんなユリウスを見つめながら、ただ静かに聞いていた。


「こんなこと、言うつもりはなかったのに…すまない」


ユリウスは謝ると、また別の場所を掃除しに行った。
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