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アブシールの英雄

第5章 第五話


地下への階段を下りていると、ガラスのはまっていない穴のような窓から、巨大な月が見えた。


どおりで明るいわけだ、とユリウスは呟くと、不意に上の階に人影が見えた。


「オーギュスタン様」


あの歌うような声が階段に響く。


「…?…

俺のことか…」


ユリウスは、ソルトはいないしな、と確認してから言う。


「あ、馴れ馴れしくお呼び止めしてしまっては…」

ユリウスの様子を見て、シンフォニアは少し恐縮する。

「いえ、そういうわけでは…

そのように呼ばれたのは初めてだったので、分かりませんでした。シンフォニア様」


「私も『様』付けは慣れません…どうぞ、シンフォニアとお呼びください」


ユリウスの言葉に、シンフォニアは少しホッとした様子でそう言った。

「では、俺のことも『ユリウス』とお呼びください」

と、ユリウスも言う。

「まあ、そのような…

グリフィス様の副将になるお方をそのようにお呼びできませんわ」

シンフォニアは少し戸惑ったように首を振った。


「副将…?

とにかく、『ユリウス』とお呼びください。

俺には従兄弟がいるので、呼ばれてもどちらか分からないし、その名は嫌いなので」

気になる言葉はあったが、ユリウスはあえて聞かず、それだけお願いした。

「そうでしたのね。分かりました…

では、ユリウス様。

どうかあの方を…グリフィス様をよろしくお願いします」


シンフォニアは祈るように手を合わせて、ユリウスに言った。


「あの方は孤独な方です。私などでは到底癒すことはできない程に…

私は運悪く女の身に生まれ、戦場に立つことができません。
だから…」

シンフォニアがそこまで言ったとき、上の階からろうそくを持った老紳士が現れた。

「シンフォニア、部屋の外は危険だ。戻りなさい」

静かな声でそう言うと、シンフォニアはまだ何か言いたそうだったが、

「はい、申し訳ありません、グリフィス様…」

とだけ言って、上の階へと上がって行った。



ろうそくの火は揺れながら、残った二人を照らす。


「シンフォニア様は、美しい方だ。

俺には理解できないが…それでも、あのように生きることの出来ること、羨ましく思う」

シンフォニアの去って行った先を見つめながら、ユリウスは言う。
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