第1章 初日
レストランでの夕食も済み、夜も更け始めた。
結局カムクラは怪しい動きは何もせず、みんなと足並みを揃えて行動しているようだった。
『…………。』
各自与えられたコテージに戻って休んでいる頃、希灯は外で立ち尽くしていた。
カムクラのコテージの前だ。
インターホンを鳴らそうと指を伸ばしては、下げるのを何度か繰り返している。
『(大丈夫……ウサミには話をしに行くって事前に伝えたから、何かあったら駆けつけてくれるはず。)』
怖い。
でも、何もしないわけにはいかない。
行動を制限することはできないけれど、せめて釘は刺しておかなくては。
深呼吸をし直し、今度こそインターホンを押す。
〈ピンポーン〉
コテージの中からチャイムと、人の動く物音がした。
間を置かずにドアが開かれる。
「……はい」
黒い長髪の間から覗く真っ赤な両目に見下ろされ、希灯は一瞬硬直した。
曖昧だった恐怖心が明瞭にカタチを帯びていく。
『かっ……カムクラくん、ちょっと話いい?。できれば中で話したいんだけど……。』
万が一にも被験者たちに話を聞かれるわけにはいかない。
賢明ではないと思いつつも、2人きりになりたかった。
「どうぞ」
何の抵抗もなく招き入れられる。希灯は恐々とカムクラのコテージに入った。
『…………。』
閉めたドアから離れずに訊く。
『あのね、ちょっと確認なんだけど……カムクラくんってさ、その……"未来機関"とか"超高校級の絶望"とかって言葉に聞き覚えはある?。』
「ええ。それがどうかしましたか」
カムクラは抑揚のない声で平然と返す。
『やっぱり知ってるか……いいや。その件についてお願いがあって。』
何も妙な動きをしないから、ひょっとしたら絶望時代の記憶がないんじゃないかとも思ったけれど、そんなことはなかった。
ドアノブを掴んだまま、希灯は言葉を続けた。
『ここに居るみんな……カムクラくんとは違って、それらの記憶を忘れさせられた状態なんだよね。だから、あの……できれば君にもそういうのを知らないふりをしててもらいたいんだ。』
そう告げると、カムクラは興味なさげに背を向ける。
「希望更正プログラムの進行を妨害するな、と言いに来たんですね」
『あ、うん……そう。』