第8章 逸脱
「お……おいおい、今さら何言ってんだ? 寂しいのはわかるけどよー」
「修学旅行、とっても楽しかったですもんね。たしかにわたくしも皆さんとの日々が終わるのは寂しいです」
「フン……別れがあるから出会いは尊いのだ。惜しくとも受け入れるのが宿命よ。人間風情には分からんかもしれんが」
深刻そうな顔の希灯に、左右田やソニア、田中が宥めるように言う。
5ヶ月ほど続いた共同生活の終わりを渋る理由なんて、そのくらいしか見当がつかなかった。
『無理だよ。寂しいとか、惜しいとか……そういう次元じゃないもん。少なくとも私にとっては。』
カムクラの消滅を知る人間がほとんどいないから、共感してくれる人間もいない。
慰めの言葉に冷ややかな目付きで返し、うっすらと口角を上げる。
『だから返さないし、帰さないよ。みんな干からびるまでこの島で平和に暮らそう?。』
「冗談……だよね?」
「希灯さん。ボクとしてはこんな茶番みたいな生活、さっさと終わらせたいんだけど。それとも、君がなってくれるのかな?ボクらが乗り越えるべき壁にさ……」
『乗り越えるべき壁……それもいいね。せっかくだし、なってみようかな。』
狛枝が少し低いトーンで言うのを聞き、希灯は言いながら、ステッキを両腕で掲げる。
『君たちの卒業を妨げる……立ちはだかる壁に!。』
空にはたちまち曇り空が立ち込め、海や風は黒々とうねり始めた。
「! 希灯さん、いけまちぇん。早まらないでくだちゃい……!」
ウサミが希灯の足元に駆け寄り、ステッキを取り返そうとジャンプを繰り返す。
「ちょ、ちょっと!いつまで寝惚けたこと言ってんのさ!?全然面白くないんだけど!」
「たはーっ。眼蛇夢ちゃんと凪斗ちゃんと足して2で割った感じっすね。無理して場を盛り上げなくてもいいんすよ?」
普段とは違う希灯の言動に西園寺は怒り、澪田は呆れ気味に叱責する。見かねた小泉も声をかけた。
「誉稀ちゃん、えっと……少し落ち着かない? なんならお別れの時間も延長させてもらうとかさ……」