第8章 逸脱
151日目。修学旅行の最終日。
もう、次の1日目はない。
卒業を目前に一同は最初の砂浜に集められていた。
『ねぇ、あのさ……修学旅行、もう終わるじゃん。……終わっちゃうじゃん。本当に…………それでいいの?。』
最後にほんの少しの自由時間が与えられ、各々その場で談笑するなか希灯は暗い表情でカムクラにそう訊く。
「今さらです。あなたは僕に縋ってもらいたいんですか?」
もうすぐ死と同等の末路を迎えることはカムクラ自身も知っている。
それなのに、態度はどこまでも落ち着いていた。
『そ、そういうわけじゃないけど、でも……やっぱり嫌だよ。これでお別れなんて……。』
「嫌だと言っても何も変わりません。僕もあなたも、この顛末を最初から理解した上で今日まで過ごしてきたはずです。最後の最後でごねて、それで何かが覆せると?」
『…………どう、だろ。私もそう思うけど、これで最後なら……もう後がないなら……。』
独り言のような調子で口ごもる。
カムクラは相変わらず無表情で、視線を砂浜に落としている希灯を見つめていた。
『後悔するくらいなら、私……。』
希灯は数歩、砂を踏み締めるように後ずさる。
『私は……。』
そのままカムクラからゆっくりと離れ、それから少し先にいるウサミに向かって真っ直ぐ歩きだした。
「それではみなさん、やり残したことはないでちゅか?これから修学旅行を終わらせるための――」
そのとき、希灯がウサミのマジカルステッキに手を伸ばして奪い取った。
「……ほえ?」
手からステッキが無くなった違和感にキョトンとし、背後の希灯を見てウサミが焦る。
「希灯さん? な、何をするんでちゅか? それがないとみなさんを帰せないので先生に返してくだちゃい」
『ごめんね……先生、みんな。』
ステッキを固く握りしめ、その場の全員を見据える。
『私、修学旅行を終わらせたくない。誰も……ここから出さないよ!。』
穏やかな波と青々しい空を背に、希灯はそう言い放った。