第5章 欲望
風に煽られたり手元が狂ったりして、なかなか思うようにカムクラへ投げられない。
それでも砂や波に足を取られることなくカムクラはボールを受け、希灯の手元まで返し続けている。
『あっ。』
掴み損ね、ビーチボールは希灯からやや離れた海面に転がった。
引く波に流されるのを追いかけようと手を伸ばすも、不安定な足場に体勢が大きく崩れた。
『うわっ……と。』
両手両膝が砂にめり込む。
転倒したものの、スネが浸かる程度の深さの場所だから別に大したことはない。
『へへ、転んじゃった。』
ドジを踏んだ照れ隠しにカムクラに笑いかけながら立ち上がろうとする。
次の瞬間、横っ面を殴られたような衝撃が頬に走った。
ビーチボールだ。離れつつあったボールが波に押し返され、その勢いのまま希灯の顔面を突き抜けるように戻ってきたのだった。
『ぎゃッ!。』
ビーチボールを乗せたスピード感のある大きめの波にそのまま呑まれ、浅瀬に押し倒される。
顔中の穴という穴に海水が入ってきて希灯は大いに咳き込んだ。
むせて苦しい。
砂浜へ這うようにヨロヨロと立ち上がっていると、カムクラが近くまで寄ってきた。
「さっきから1人で何やってるんですか」
ビーチボールを拾いながら静かに言う。
呆れも嘲笑も感じないその口調に、希灯は眉を下げた。
『ゲホッ……いっそ笑ってよね。さっきからダメなとこばっか見せちゃって恥ずかしいったらないよ。』
羞恥心の行き場がどこにもない。
困ったように言う希灯に、カムクラが平然と返す。
「別に。あなたの運動能力の低さは前々から知っているので」
『私いつも君にこんな無様晒してたの……!?。』
「まぁ、はい」
なに食わない顔で答えるカムクラに、希灯は一層顔を赤くする。
そういう過去はあんまり知りたくなかった。
「……そろそろ時間です。戻る準備をしましょう」
言いながらカムクラが海から上がる。それに付いて、荷物を置いていた所まで向かった。
『はい、タオル。』
「どうも」
荷物の中からフェイスタオルを2枚取り出し、各々で髪や体の水気を拭き取る。
荷物をまとめ、ビーチサンダルを履きパーカーを羽織りなおした。